法衣の着心地や印象を決定づける要素の一つは、生地の種類です。
法衣に用いられる生地において代表的なものは「正絹」「化繊」「木綿」「麻」の4種です。
このコラムでは、それぞれの生地のもつ特徴・用途・メリット・デメリットについて簡単に解説します。
正絹
*代表的な織物
*その他にも種類はございます
製造方法
正絹は、蚕の繭から取り出される高級な天然繊維(動物繊維)です。
蚕の幼虫が桑の葉を食べて成長し、繭を作ります。
その後、繭から蚕が出る前に繭を収穫し、湯につけて絹糸を取り出します。
この絹糸を紡いで糸にし、それを織って生地を作ります。
蚕の繭
用途
素絹・袍服・直綴・褊衫・改良服と幅広く用いられます。
褊衫・如法衣といった律衣は、もともと木綿や麻が主流でしたが、現在は正絹でつくられることもあります。
外出着は正絹、普段着としては化繊といった使い分けをされていることも多いです。
冬用は、中目から重めの羽二重、夏用は、紗や絽といった通気性の良い生地を使用します。
その他、ちりめん、紬といった生地がありますが、羽二重同様に糸の太さ、密度によって厚みに違いがあります。
メリット
- 絹独特の光沢と繊細でしなやかな質感で高級感がある
- なめらかで柔らかく、着た際に肌に馴染みやすい
- 通気性が良いだけでなく保湿性にも優れている
デメリット
- 生地自体が高級品かつ手縫い仕立てとなるため他の素材と比べ価格が高い
- デリケートな素材のため自宅で洗濯できない
- 湿気に弱く、虫食いの危険もあるため、保管には注意が必要
化繊
製造方法
化繊(化学繊維)は、人工的に合成された繊維のことです。
代表的なポリエステル繊維は、主に石油や天然ガスなどの炭化水素を原料として、特殊な加工工程によって分解し、その後、高温・高圧の環境下で化学反応を起こして繊維を生成します。
生成された繊維は紡糸工程を経て糸になり、最終的に反物へと加工されます。
その他にも、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維など、素材の組み合わせの違いによっても多くの種類の生地があります。
用途
正絹と同じく、素絹・褊衫・直綴・改良服など幅広く用いられます。
多くの繊維メーカーがオリジナルの生地を製造しているため、織り方もさまざまな種類のものがあります。
夏場は、扱いやすい化繊の薄い生地を選ばれることも多いです。
メリット
- 生産量が多く価格が安い
- 繊維が強いためしわになりにくく丈夫
- 水を含みにくいので乾きやすい
デメリット
- 原料が石油なので静電気が起きやすく帯電する
- 経年劣化が早い(色落ち・熱に弱い)
- 色の種類が定番色に限られる
木綿
製造方法
木綿は、綿花を原料として製造される天然繊維(植物繊維)です。
まず、綿花の収穫後、種子や不純物を取り除きます。
その後、繊維を繊維状に解凍し、紡績工程で糸にします。
この糸を織機や編機などで織ったり編んだりして木綿生地が作られます。
綿花
用途
主に、褊衫・如法衣といった律衣に用いられます。
通気性が良いだけでなく、保湿性にも優れているので、通年用の生地として推奨しております。
その他には、白衣・襦袢・足袋などの素材としても多用されます。
メリット
- 生産量が多く価格が安い
- 天然素材で肌触りが良い
- 通気性が良いだけでなく保湿性にも優れている
デメリット
- 吸水性が高く、生地が縮みやすい
- しわになりやすい
- 染まりやすいため黄ばみが付きやすい
麻
製造方法
麻は、セルロースから構成される植物繊維の総称を指し、リネン(亜麻)やラミー(苧麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)などが代表的です。
まず麻の茎を収穫し、その後、茎を水や湿気に浸して腐敗させ、茎の外皮を取り除く工程が行われます。
この工程を「レッティング」と呼びます。
次に、取り出された繊維を束ねて乾燥させ、紡績工程に進みます。
紡績では、繊維を紡ぎ、糸にし、この糸を織機や編機で織ったり編んだりして麻の生地が製造されます。
ラミー
用途
木綿同様、褊衫・如法衣といった律衣に用いられます。
通気性が良いだけでなく、保湿性にも優れているので、通年用の生地として推奨しております。
メリット
- 熱伝導性が高く、天然繊維のなかでもっとも涼しい繊維といわれる
- 摩擦や引っかかりに強いため、長期間の使用が可能
- 保湿性に優れている
デメリット
- 不作とコロナの影響で世界的に価格が上昇中
- 吸水性が非常に高く、生地が縮みやすい
- 肌触りが粗く、他の天然繊維に比べて柔らかさに欠けることがある
まとめ
生地の特徴を比較
今回、コラムで紹介した四種は、法衣に用いられることの多い生地です。
各生地の特徴は細かく言えばまだまだありますが、かなり大雑把にまとめます。
正絹=上品で高級感がある
化繊=軽くて扱いやすく低価格
木綿=肌触りと吸湿性が良い
麻 =頑丈な高級天然素材
品質や用途に応じて適切な生地を選ぶことが、法衣の魅力や機能性を最大限に引き出すポイントと言えます。
法衣を新調される際にご参考にしていただければ幸いです。